エッチなおはなし
エロは地球を救う!モーツァルトのような無垢なエロを書きたい・・・
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優雅で退屈な休暇 1
僕が、18年間勤めてきた会社を辞めたのは、会社創設以来、初めて募集された早期希望退職制度に応募してのことだった。
「お前を辞めさせるために、この制度が出来たんじゃない。他に辞めるべき人間はいっぱいいるだろう」
僕を本社に引っ張った専務が、語気を荒げて撤回を迫ったけど、すでに僕の決意は固かった。強面で名高いこの専務に逆らったのは、もちろん初めてのこと。
東京では知らない人がいないほどに有名な大型雑貨店の営業政策部で、常にプロジェクトの先頭に立ち、それなりの成果は上げていたものの、仕事が楽しいとか面白いとか感じたことは一度として無かった気がする。
与えられた仕事は確実にこなしたし、それなりの結果も残してきた。
たぶん上司にとって、僕ほど使いやすい部下は無かったんじゃないかな?必要な時に必要なだけの能力を注ぎ、そして仕事は確実にこなす。上層部の気紛れで、社の方向性が180度転換され、短期間で営業政策を軌道修正しなければならない…そんな状況が、僕がもっとも得意とするところで、数日徹夜をしても、きっちりと答えを出して上司に提出した。
泣き事は言わないし、決して出過ぎたこともしない。当然上司批判もやらない。
上司にとっては、まことに使いやすい部下…というよりは使い勝手の良い道具って感じ。決して使い手を裏切らないのだ。
同期より、ちょっぴり早く出世した僕を、彼らは『おまえには自分と言うものが無い!』と、なじったけど、たしかにそれも一理ある。僕は、どんな上司に仕えても、自分をその上司色に染めることが出来た。都会のカメレオン。
ただ、僕から見れば、毎晩のように上司と宴会に興じ、日曜ゴルフでは、いそいそと上司を迎えに車を走らせる、そういう姿の方がはるかに『自分が無い』ように思えてならないのだけど、どうだろう?。まっ、見解の相異かな?
僕は、職場以外での付き合いをほとんどやらなかったので、当然人脈なんてものには無縁だったけど、むしろそれは望むところでもあった。
仕事での残業は全然苦にならなかったけど、プライベートの時間まで、会社の人間と共にするのは、苦痛以外のなにものでも無い。
空いた時間は、静かに好きな音楽を聴き、本を読むことに使うべきなのだ。
そんな僕が、希望退職に応じたことは、周囲の人間には、ちょっとした驚きだったようだ。
どんな無理な仕事にも文句一つ言わずに取り組む僕の姿勢を、『上に取り入って出世を狙っている』と断じていた同僚は、『どっか他の会社に引き抜かれたのか?』と、わざわざ質問しに来たが、もちろんそんな当てなどあるはずも無い。
と言うか、その時点で僕は、働く意欲というものを失っていた。思い切って言ってしまえば、僕は労働が嫌いだった。
18年間の労働で僕は消耗していまい、すでに一生分働いたような気になっていた。
僕は、あまり深く考えることなく、まさしく『とりあえず』会社を辞めることにした。
もちろん他になにかやりたいことがあるわけでも無い。
しつこく説得を続ける上司を適当にあしらい、無事退職と相成り、僕は柄にも無く解放感に浸った。仕事がストレスだったことを、この時に初めて実感した。
全社で100人前後の社員が希望退職に応じたらしいが、どうやらその半数は、会社から半強制的にハンコを付くことを迫られた結果らしい。
絶頂期には飛ぶ鳥を落とす勢いで売上を伸ばした会社も、長引く不況とデフレの嵐に飲み込まれ、好調時に増やした店舗と従業員が足かせとなり、ついに人員の大量整理に至ったのだ。
まあ、親会社が巨大電鉄会社でもあり、いわゆるリストラ原資は銀行筋からたっぷりと融資されていたらしい。希望退職者に対する退職金の上乗せは大きく、僕も2500万円の退職金を受け取った。
退職後のフォローも万全で、就職斡旋会社の費用は会社持ち。失業手当ては最大で、僕の場合10ヶ月の支給(しかも退職翌月からの支給)が保証されていた。
退職後、僕がまずやったことは、日本で一番有名な証券会社の支店に行き、退職金の運用を相談することだった。
財テクなどというものに、興味も知識も持ち合わせていなかった僕は、年若い女性スタッフが、株式ではなくアメリカの債券を奨めてくれるのを、ただおとなしく聞いていた。
(つづく)
2011.06.09 Thu
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優雅で退屈な休暇
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優雅で退屈な休暇 2
「このコースはブラジルレアル建てになっておりますが、成長著しいブラジル経済は金利が高く、高い配当が期待出来ます。ブラジルは人口に占める若年層の比率が高く、将来性が高い上に地下資源が豊富で、しかも世界有数の食糧生産国でもあります」
「へえ、そうなんですか」
僕が合いの手を入れると、証券会社の担当スタッフは、チャーミングで自信満々の笑顔でうなづいた。
彼女が一生懸命に説明してくれる間、僕は、きれいにデコレートされた彼女の爪をチラチラと眺めていた。
「2014年にはブラジルでサッカーのワールドカップが開催され、その2年後にはリオデジャネイロでのオリンピックが控えています。私どもは、少なくともそれまではブラジルの成長が続くと見ているんです。まだ決定はしていませんが、その後に万国博覧会が開催される可能性も高いようですよ」
まるでブラジル大使館員のように、丁寧にブラジルを持ち上げる彼女。僕は、ブラジルにもワールドカップにも、とんと興味は無かっけど、彼女の熱心で真摯なブラジル讃歌に1票を投ずることにし、さほど考えることもなく、退職金とそれまでの貯蓄を合わせた4千万円で、彼女お勧めの債券を買うことにした。
ほぼ全財産。わずか30分の商談での決定に、爪に細かな金の粒を散らした女性スタッフが驚き、支店長まで挨拶に出て来た。
僕は分厚いパンフレットと、粗品のタオルセットを証券会社の立派な紙袋に入れてもらって家に帰った。
その月の終わり、証券会社に作った口座に、当月分の配当として65万円が振り込まれた。
「ホホ~」
呆れるしかなかった。証券会社の女の子は決してウソは言わなかったのだ。
休日返上で働いて得た手取り給料の2倍の金を、働かずに得ることが出来る。ブラジル恐るべし!
僕は、これでしばらくはダラダラと過ごせそうなことを祝福した。そう、僕は基本的に怠惰な人間だったのだ。自分でも気付かないほどに。
たしかに、債券なんていつ紙くずに変わるかもしれない(アメリカが破産したらどうなる?)。でも、僕は元々あまりコストの掛かる生活をしてきたわけではなかったし、金が無くなれば、また働けばいい。
不況で求人難と言われようが、どんな仕事をしても、そこそこの働きは出来る自負はある。
そして、組織が本当に必要とするのは、僕みたいな実戦的な人材だということもなんとなく知っていた。
でもとりあえず、働くのは先の話だ。
40歳、独身、借金無し。なんとでもなる。
そして、優雅で退屈で長い、僕の休暇が始まった。
親からも孤独癖があると言われてきた僕だけど、そんな僕にだって友達はいる。そして、僕には友達と呼べる存在が一人しかいなかった。
その唯一の友達は女性で、定期的にデートをして、セックスまでしていたから、彼女と呼ぶ方が適当かもしれないけど、僕は『友達』と呼ぶほうがぴったりくると思っていた。セックスもするお友達。でも『セックスフレンド』とは、ちょっとニュアンスが違う。
その人の名は金井葉子。
44歳で僕より4つ年上。結婚していて高校生の娘と息子がいる。
開業眼科医の妻にしてフリーランスの店舗コーディネーター。店舗の企画からディスプレイなどを手掛け、場合によっては雑貨の卸販売なども行っているらしい。
もともと裕福な家なのに、二人の子供を育てながら自分の仕事を持ち、主婦業までこなしてきたのだからたいしたものだ。
不倫な関係だから、彼女と言うより愛人と呼ぶべきかもしれないけど、当然ながら僕も彼女も愛人なんて呼び方はあまり好きではなかった。
葉子と僕の関係は15年前からで、その頃葉子は店舗ディスプレイ専門の会社に所属していて、そして僕の勤め先で出会った。
当時、僕は社会に出て3年目。やっと一人前の仕事を任せられた頃だ。
どんな状況から、葉子と男と女の関係になってしまったか、今では思い出せないぐらいだけど、基本的に女性に対しては一貫して受動的な僕が、短期間のうちにホテルのベッドで葉子と抱き合うことになったのだから、なにごとにもアグレッシブな葉子に押しまくられたと考えるのが自然だろう。
当時の葉子は、二度目の出産を終えて間の無い頃だったので、初めてセックスをした時、乳首を吸うと母乳がこぼれ出て来て、僕を驚かせた。
(つづく)
2011.06.10 Fri
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優雅で退屈な休暇
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優雅で退屈な休暇 3
常に完璧なまでの化粧を施し、最新のモードに身を包み、40歳を過ぎてからも男の視線を集めて止まない葉子が、どうして僕のように背後霊みたいな男を引っ掛けた(?)のかは、いまだ謎だけど、とにかく若き日の僕は、葉子に夢中になってしまうことになる。
僕をとろけさせたのは、なんといっても葉子との妖しいセックスだった。彼女は頭が良くって、スラリとした肢体の持ち主で、仕事に関しては攻撃的で妥協を許さず、そしてセックスが大好きだった。
女性経験の乏しい僕は、葉子の手練手管にさっそく骨抜きにされてしまう。
僕らは、誰にも気付かれないよう密かに交際を続け、月に1~2度はデートをし、そして会えば必ずと言っていいほどセックスをした。
僕は、なんとか彼女を歓ばせようと、乏しい知識を動員して一生懸命尽くすようにセックスに励んだけれど、葉子はセックスが好きな割りに、それほど感じているようには見えなかった。それはたぶん、僕のエッチが下手というより(それもあるけど)、葉子がやや不感症気味のような印象を持った。
葉子は、むしろ僕に奉仕する方を好み、特にフェラチオが巧みで、放っておけばいつまでも僕のペニスを吸ったり舐めたりし続けた。
若かった僕は、我慢できずに何度か葉子の口の中で弾けてしまい、彼女は苦笑いしながらティッシュに白い液を吐き出した。
当時は僕も若かったから、ラブホテルに行けば2度出すのが定番。もしかしたら口内射精は、前戯のひとつと言えたかもしれない。
会うことの出来る日が、彼女の生理の日に当たる時もあったけれど、そんな時でも葉子はホテルに行くことを望んだ。
当然彼女は人妻だから、セックスの際には必ずコンドームを付けるのだけど、生理の際には生で入れさせてもらう。そういう時、まずはバスルームで戯れ、彼女の片脚をバスタブに乗っけさせた体勢で立ったまま前から交わる。彼女を抱きしめて腰を不器用に動かし、口を吸い合いながら、やがて絶頂に達して彼女の中に放出するのだ。
ペニスを抜けば、葉子の太ももに血液まじりの白い精液がタラタラと流れ、出しっぱなしのシャワーがそれを洗っていく。
あの頃僕らは若かった…(?)
そんな葉子との関係に僕はのめり込んだけれど、さりとてこの二人の関係が永遠に続くとは到底思ってはいなかった。
何と言っても葉子は人妻ですから。こんな関係が長続きするはずが無い。
しかも、生まれながらに華やかな衣裳をまとうがごとく生きてきた葉子と、若いうちからシックな生きざまに馴れ親しんでいる僕。捨てられるのは時間の問題だと思っていた。
ところが、このあたりが人生の不可思議なところで、僕と陽子の関係はその後15年経っても、たいした変化も劇的な盛り上がりも見せることなく継続している。
『まるで家族みたいな存在』
葉子は僕のことをそう評したけれど、むしろ空気のような存在だと思う。見た目よりずっとストレスに弱い葉子は、平凡を絵に描いたような僕と交際することで、リラックスする時間を得ていたのかもしれない。
この15年の間に、僕は葉子のいろんなことを知った。
彼女は、仕事に関しては自他共に認める完全主義者だったが、実は意外とおっちょこちょいで、つまらないミスをよく犯し、忘れ物の天才だった。
セレブの割に味覚に鈍感で、やたら辛いものやしょっぱいもの、甘ったるい食べ物を好んで、刺激に弱い僕を悩ませた。
子育てより仕事の方が好きで、ふたりの子供は同居する自分の母親に任せっ切りだった。
当然、僕らの関係を葉子の旦那さんに発覚することを恐れていたけど、その割に自宅に程近い繁華街を僕と手をつないで歩いたりするのは平気だった。
男関係は奔放だと思っていたけれど、意外に経験は少ないらしく、彼女が告白した限り、僕は生涯で4人目の男で、浮気に関しては、僕以前に1人あっただけだと言った。
フェラチオが上手なのは、どうやら旦那さんの手ほどきらしいけど、体の性感に関しては僕が開発したのではと、密かに自負したりしている。
(つづく)
2011.06.11 Sat
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優雅で退屈な休暇
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優雅で退屈な休暇 4
葉子は、旦那さんとはほとんどセックスレス状態だと言うけれど、実はそうでもないみたいだ。
一度、排尿の際に痛みを感じるようになり、尿が泡立ち始めた時があり、『これはもしかして…性病?』と焦ったけれど、数日で快方に向かってホッとしたことがある。
後日、葉子にこのことを話すと、やはり彼女にも同じ症状があったらしく、葉子は僕から変な病気を移されたと思い込んでいたらしい。
でも、僕は葉子以外の人とエッチしたことは無いと、自信を持って断言出来たので、逆に僕に問い詰められた葉子は黙り込んでしまった。
なんのことはない。おそらく旦那さんから葉子経由でなにかを感染させられたのだ。
夫婦とは、同じウイルスを共有する関係と言うけれど、何時の間にやら僕までそれを共有していたということになる。旦那さんに妙に親近感を覚えた瞬間だった。
僕と付き合いを始めてから、葉子が浮気をしたことは無いと確信している。
なぜ確信できるのかって?彼女は意外と単純にして初心、もし浮気をしたとすれば、僕は確実に見抜く自信があったから。
逆に言えば、僕との関係を旦那さんに見抜かれている危険もあるということだけど、付き合って15年も経つと言うのに、旦那さんから疑いの目を向けられたことは一度も無いと葉子は言い切った。
これに関してはよくわからない。僕と葉子は、相変わらず月に1~2度のペースで会ってはセックスを繰り返していたし、年に2~3回は泊りがけで小旅行にすら出掛けていた。もちろん葉子はキチンとアリバイを作ってはいたけれど、どうも危なっかしい。葉子は、仕事に関しては完全主義者だったのに、プライベートなことに関しては往々にしてガサツだった。
さらに、携帯電話を持つようになってからは1日2回の定時メールを義務付けられていて、葉子からはよく、女子高生のような愛の語らいを送ってよこして来たが、そんな状況でも何も気付かない旦那さんって…
よほど鈍感なのか、自分の奥さんに興味が無いのか、知っているのに見ぬふりをしているのか…
そんなことが気になった時期もあったけれど、最近はもう深く考えること止めることにした。
僕が悩んでも仕方が無い。だって僕が結婚しているわけじゃないからね。
単身者用のワンルームマンションを借りていた僕は、30歳になったのを機に中古の2DKのマンションを買った。
葉子の自宅から車で30分。学生時代から住んでいたワンルームに葉子を連れ込むのは憚られたけれど、これでラブホではなく、僕の自宅で二人の時間を楽しめるようになった。
ちょうどその頃、国産の大衆車も購入。これで僕らのデートのバリエーションは飛躍的に増えることになり、機動力もアップした。
ただ、葉子はセレブの割りに吝嗇なところがあり、特に僕がお金を使うことを極度に嫌がったので、最初はマンションも自家用車も買うことに反対した。
もっとも、喉元過ぎればすぐに慣れるもので、マンションと車は、すぐに僕たちの逢引きに無くてはならないツールとなっていた。
車を買ってから、僕らのデートは都心に向かうのではなく、関東近郊をドライブして、きれいな景色や季節の花を愛でるのがメインのコースとなっていた。
ある時、山中湖畔にある有名な日帰り温泉に僕が無理やり連れて行ったのだが、初めこそ嫌がっていた葉子が、その温泉をたいそう気に入ってしまい、その後のデートでは温泉巡りが重要なポイントになる。
初め彼女が温泉を嫌がったのは、風呂上がりのすっぴんの顔を僕に見られるのが嫌だったらしいが、女ってホント妙なことを気にする。デートの最後には、真っ裸で抱き合うことになるのにね。
彼女は、自分が結婚していることに負い目を感じるらしく、セックスの後、裸で抱き合っているような時に、涙を流すようになった。
どう考えても彼女のキャラに似合わないこんな行動は、出来れば止めてもらいたかったけど、まあそれは甘えの一種だと思って割り切るようにした。
なぜ彼女は泣くのだろうか?
「私がずっとあなたを拘束していては、あなたはいつまでたっても結婚出来ない。早く結婚しないと、子どもを作るタイミングも失ってしまう」
と、切なげに訴えるのだが、僕はそれを聞いて心の中で苦笑するしかなかった。だって、すでに僕は彼女以外の誰かと付き合うなんて、想像すらうまく出来ないようになっていたのだから。
(つづく)
2011.06.12 Sun
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優雅で退屈な休暇
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優雅で退屈な休暇 5
元々仕事以外のことにはものぐさな僕は、今更誰か他の女の人と一から人間関係を作り、妹背の契りを結ぶ…などという面倒な手順を踏む気力はすでに無かった。僕の結婚の心配など、余計なお世話と言うものだ。
僕は、早い時点から自分は結婚に不向きだと悟っていたので、別に結婚に憧れる気持ちは無かった。さりとて、やはり一人は寂しいから、こうやって葉子とずっと密かに付き合ってさえいられれば充分満足だった。
ましてや、葉子が旦那さんと別れて、僕と一緒になるなんてことはあまり現実的とも思えない。
万が一そうなったとしても、葉子の二人の子供の父親になる自信なんて無かった。いや、たとえ自分の子供だとしても僕には父親になる覚悟も自身も無かった。
もっとも、葉子に離婚する気が無いことは明白だった。人一倍世間体を気にする葉子が、今の立場を捨ててまで僕の許に飛び込んで来るとは考えにくいし、僕だって困る。
それに、葉子が僕を他の女と結婚させたがっていると言うのもウソ臭い。
だって、エッチの際には僕のペニスを弄びながら、『浮気しなかった?』などと、勃起したそこに語りかけては舌先で舐めるのだから。
ぬるま湯のような不倫関係…僕らは、この関係がいつまでも続くよう心の中で祈っていた。
会社を退職することを葉子に告げた時には、やっぱり反対された。
『せっかく新卒から勤めてきたのに、もったいないじゃない!』
まさしく予想通りの反応だったが、さすがに今回だけは僕の決意が固いことを知ると、今度は出来るだけ早く再就職するようしつこく言い始めた。
でも、前にも書いたように、僕はしばらくブラブラして過ごすつもりだったから、葉子の忠告は適当に聞き流し、そのうち彼女もあまりうるさく言わなくなった。
僕には、有り余るほど時間があったから、彼女が仕事に出掛ける際には出来るだけ車で送迎してやり、さらに彼女が苦手な企画書などの書類を、パソコンで代筆してあげた。
「けっこう役に立つわね」
「どうも」
葉子の仕事の影のパートナーになることは悪くなかった。どうせ他にやることなんて無いのだから。葉子もやっと、僕の有用性に気が付いたみたいで、僕が無為な毎日を送っていることにも文句を言わなくなった。
「お給料を出さなくっちゃ」
彼女がそんなことを言ったけど、もちろんそれは辞退した。前述したように、僕は退職金をうまく運用していたし、ハローワークに通って、月々20万円の失業保険まで受け取っていた。
僕の住む県の行政は非常に鷹揚で、適当に書類さえ提出しておけば、雇用保険は比較的容易に支給されたのだ。
これが川一つ隔てた東京都になると、小まめに企業の面接を受けないと叱られるらしい。
僕なんて担当者に、『今は再就職は大変ですが、くじけずに頑張ってください』と、同情されたほどだ。
さらに僕は追い打ちを掛けるように、ハローワークが提携するスキルアップ講座のひとつ、パソコン講座を受けることにした。
15万円ほど払って、民営のパソコン学校が開く講座を取れば、4ヶ月から半年を掛けてパソコン資格に合格するまで、就職活動をしなくても雇用保険が支給される優れ物。おまけに資格を取れば授業料の半額が戻ってくると言うから太っ腹。日本の失業対策は手厚すぎるのでは?と、思わず思ってしまうぐらいだ。
と言うことで、僕は週に2~3回、駅前にあるパソコン教室に徒歩で通った。
若い女性や定年退職したじいさん連中と一緒に授業を受けるのは、なにやら不思議で、それなりに面白かった。
仕事でパソコンには精通しているつもりだったけど、基礎から学び直すのも新鮮なものだ。パソコンにはありとあらゆる機能が隠されている魔法の箱。おかげで自己流だったタッチタイピングを完全にマスターし、パワーポイントの遊び方も知った。
僕はそんな新しい機能を使って、葉子の仕事用の企画書を斬新に作り直し、『遊び過ぎ!』と、叱られた。怖い上司だ。
僕がフリーになった4月の中旬、僕らは2泊3日の予定で、旅行に出掛けることにした。
それまでも二人でよく旅行はしたけれど、なんと言っても葉子は人の奥さんだし、僕もあまり休みは取れなかったから、せいぜい1泊2日で日光とか那須、伊豆方面に出掛ける程度だった。でも、今回はちょっと足を伸ばして、信州から越後路へ…って、2泊3日だから、たいして代わり映えのしない忙しい小旅行だけどね。
(つづく)
2011.06.13 Mon
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