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白いブラウスにグレーのスカート。
その後ろ姿は母に間違いはなく、そして一緒に歩いている男は、中途半端な茶髪から昨日母と親しく話していた富田さんだとわかりました。
二人が何を話しているのかは聞こえませんが、母が時折富田さんの方を向いて明るく笑ったりして、まるで恋人同士です。
私はドキドキしてきて、昨日の不安な気持ちが甦ってきました。
「あれ、富田さんだよね。叔母さんとどっか行ってたのかな?」
そんなユリちゃんの言葉に返事をする余裕もありませんでした。

私たちは何となく母たちの後を付いて歩いていました。
跡を付けるというのではないのですが、すぐに声も掛け難くって…
やがて男の手が母の腰に回されました。私は母が当然振りほどくと思ったのですが…母は何の抵抗もせずに腰を抱かせたままにしています。
(お母さんったら、何やってるんだろ!)
私は頭に来て、走って追いかけようとした時、二人が角を曲がりました。
そのあたりは何やら怪しげな雰囲気の一帯で、ちょっと戸惑った私でしたが、お母さんのことを放っておけず、小走りで後を追いかけました。
道路の右側に突然現れた白いビルには『プチホテル・ロマンス』というピンクのイルミネーションが輝いています。そして、その暗い入口のあたりに差し掛かった時、富田さんが急に母の体を抱き寄せ、中に入ろうとしました。
母は一瞬驚いたように立ち止り、イヤイヤをして富田さんの手から逃れようとしましたが、さらに富田さんが腰を引くと、次の瞬間、母は男の方に身を寄せ、その一瞬後には二人で入口へと消えて行ったのです。
「アッ!」
私は悲鳴を上げ、足早にホテルの入口まで歩いたのですが、そこにはスモークの自動ドアがあるだけで、母たちの姿はもうありませんでした。

私は足早にホテルの前を離れ、一人でどんどん歩いて行きます。
ホテルの前で母を待ち構えようかとも思ったけれど、とてもそんな勇気はありませんでした。
ユリちゃんが慌てて後を追って来ました。
「まったく富田のオヤジ、奥さんも子供もいるのに何考えてんだか!」
ユリちゃんは私に並んで歩きながら、吐き捨てるように言いましたが、私の母にも家庭がある。
私は黙って歩き続け、ついにユリちゃんちの近くの公園までたどり着き、そしてそこにあったベンチに座りこんでしまいました。
「お母さん、いったい何を考えてんだろう」
私の泣きそうな声に、ユリちゃんもしばらくは掛ける言葉が見つからないよいでしたが、やがて、
「魔が刺したんだよ。ちょっと祭囃子に浮かれちゃたんじゃないかな?」
と、大人びた慰め方をしてくれました。
「…今ごろセックスしてるのかなあ?」
「そうとは限らないんじゃない?お話ししてるだけかも!」
ありえないし。
「ユリちゃんに、恥ずかしいところ見られちゃたね」
「そんなことないよ!うちのパパも、昔、浮気してたってママが言ってたもん」
一生懸命慰めてくれるユリちゃんの優しさが身に沁みます。
まさかお母さんが、お父さんや私を捨てて、あの男の元に走るとも思えないし、ここでクヨクヨしても始まらないと思いました。
(つづく)

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2010.10.31 Sun l ゆきえの冒険・中学生編 l コメント (4) トラックバック (0) l top