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日韓戦ではウイングスパイカーとして先発出場すると、クロスとストレートのスパイクを効果的に打ち分け、相手エースをブロックでシャットアウトし、サーブで崩し、勝負所で華麗なバックアタックを決めた。
そんな活躍を間近で見たバレー関係者たちは、片桐絵梨菜は決して人気だけのアイドル選手ではないことをあらためて痛感するのであった。
終わってみれば対抗戦は圧勝で、最多得点を上げたエリナがMVPに選ばれた。
そして、試合中は韓国チームを熱狂的に応援した地元ファンすらも、試合が終わればエリナに夢中で、怖いもの知らずの高校生たちはガードマンを押しのけてサインをねだり、送迎バスを取り囲んだ。
『泣き虫エリナ』は、韓国でも有名だったのだ。
結局、翌日のソウル市内観光の際には、警官隊が警護に当たって物々しい雰囲気になってしまったが、それもまたいい思い出と楽しむエリナだった。

エリナは、この韓国遠征を区切りに受験勉強モードに切り替えようと決めていた。エリナの夢は中学か高校の教師になって、バレー部を指導することだったのだ。
ところが、そんなささやかな夢でさえ周りが寄ってたかって壊しにかかった。
すでにエリナを巡っての争奪戦がオーバーヒート気味に始まっていて、進学を希望するエリナ側に、実業団の名門チームは口を揃えてこう言った。
『エリナさんは将来の全日本を背負って立つ逸材。しかし日本の大学には世界的なプレーヤーを育成するノウハウに乏しく、多くの1流プレイヤーを育てた実業団入りすべきです。うちならきっとエリナさんをオリンピック選手に育てて見せます』
それでもエリナの進学の意志は固かったが、エリナの知らない水面下で猛烈な獲得合戦が繰り広げられていた。
その中心となったのが電子業界の風雲児と呼ばれ、そのグループの傘下にプレミアリーグ所属のバレーボールチーム・アルタイルを擁するアルタイルグループ総帥菅原三千雄で、部下に片桐絵梨菜獲得の至上命令を発し、ついにはオーナー自らが出馬した。
アルタイルグループが圧倒的に有利だったのは、エリナの父親がグループの末端に名を列ねる部品メーカーに勤務していたことで、アルタイル側は自信を持って父親の説得にかかった。
父親は出来ることなら娘の意志を尊重してやりたかったが、真面目さだけを取り柄に中小企業の課長を勤める父親と、手練手管を駆使した強引なM&Aを繰り返し、一代で巨大企業のトップに成り上がった菅原とでは勝負になるはずもなかった。
脅されたり、すかされたり、丸め込まれたりしながら、結局父親はエリナがアルタイルグループ本社の社員として入社する同意書にハンコを付いてしまったのだった。
自身の情けなさに泣いて詫びる父親だったが、エリナは寂しそうな眼をしたものの父親を責めたりはしなかった。
「お父さんがそれで助かるのなら…」
こうしてエリナは、アルタイル入りに同意したのだった。

進路が決まれば卒業まではあっという間。
エリナは卒業式の後、家族とスキー旅行に出掛け、クラスメイトたちとディズニーランドに行ったことを高校最後の思い出として社会に飛び立とうとした。
ただ、どこに行ってもそのスーパーモデル級のスタイルとルックスで目立ってしまうエリナは、家族といても友達といても、いつも誰かの注目を浴び、そして追い掛けられ、そんなことにも徐々に疲れを感じるようになっていた。
(つづく)

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2010.11.30 Tue l 泣き虫エリナ l コメント (2) トラックバック (0) l top