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信州滞在3日目。
ユリエは、高校の生徒会の用があるとかで、朝から登校してしまい、奈緒とゆきえは自由行動ということにした。
もっとも、ゆきえはしきりに、『奈緒ちゃん、一緒に松本の街まで行こうよ』と誘ったのだが、
「そう毎日、あんたのお守りばっかりしてられないわよ!一人でお城にでも登って下界を見下ろしながら、もう一度、自分の人生を見つめ直してくれば?」
と、憎まれ口を叩き、勝手にどこかへ出掛けてしまったのだった。
「チェッ」
ゆきえは、つまらなそうに、一人で松本観光に出掛けた。なんのかんの言っても、奈緒がいないと不安なゆきえだった。

奈緒は、田んぼに囲まれた安曇野の農道を、麦わら帽子をかぶって、のんびりと歩いていた。
空は快晴。たしかに紫外線はきついけど、頬を撫でる風はさわやかで、奈緒は目を細めて眩しそうに8月の太陽を見上げた。
やがて、路傍に石造りの道祖神を見付けると、小走りに駆け寄った。
「わあ!握手像だ!」
嬉しそうな声を上げ、さっそくデジタルカメラに収めて行く。
意外や奈緒の今回の旅の目的は、これだったりするのだ。

道祖神は路傍の神。集落や村の境界、辻などに祀られた石像で、村の守り神、子孫繁栄、旅や交通安全の神様として信仰されている。
また、男女のカップルで彫られた双体道祖神も多く、男女の性交をイメージすることから、夫婦和合、子孫繁栄のシンボルとしても拝まれている(道祖神の祖の字のつくりの『且』は、男性性器を現しているという説もある)。
日本中に存在するが、関東甲信越地方に多く存在し、特に安曇野地区には約400の道祖神が残っている。
奈緒がこの時見つけた道祖神は『握手像』と呼ばれるタイプで、安曇野地区の握手像は綺麗に彩色されているものが多いが、それはお祭の際に、地元の子どもたちが祈りを込めて彩色しているのである。
奈緒は、かつて家族とハイキングで出掛けた群馬県で、初めてこの小さな石像に出会って以来、妙に心惹かれるものを感じ、折に触れて見て歩いていたのだが、今回、ゆきえの里帰りに誘われた時、真っ先に思い浮かんだのが安曇野の道祖神群だった。
奈緒は、この日一日をかけて、それらの石像を出来るだけ探して歩くつもりだった。
でも、そんなことは親友のゆきえにも秘密。
『こんな地味な嗜好の趣味を私が持っていることに気付かれたら、クールなイメージが崩れるからね』
自らのイメージ作りには、妙なこだわりのある奈緒だった。

稲穂を青く実らせ始めた田んぼが途切れる辺りに小さな雑木林があり、その傍らに、道祖神を据えた小さなほこらを見付けて奈緒が近付いた。
『あら?これは酒器像だわ』
酒器像とは、婚礼、祝言の様子を表したもので、女神が瓢箪や徳利を持ち、男神が盃を手にした組み合わせで、中には男神が女神の肩に手をまわした微笑ましいものもある。
奈緒が、その道祖神をカメラに収めようと、カメラを手にかがみこんだ時、クヌギやナラの雑木の間に人の気配がした。
『ん?もしやカップルがラブシーンでも?』
その手の勘が異常に鋭い奈緒は、サッと身を隠しながら木立に近づいたのだが、そこには思わぬ人物が。
『あっれ~?』
予想通り、気配はカップルではあったが、どうもラブシーンではなく、なにやら揉めている様子。しかも、二人ともまだまだ子どもなのだった。
「おい!エロジュン!」
いきなり背後から声を掛けられて、ジュンは驚いて飛び上がった。
(つづく)


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2011.12.31 Sat l ゆきえの冒険・高校生編 l コメント (4) l top