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学校にはマスコミ以外にも地元の応援団や怪しげな自称親衛隊が押し寄せて、警備を厳重にせざるを得なかったが、それでも絵梨菜は嫌な顔をせずに子どもたちにねだられれば照れながらもサインに応じた。
そして春高バレー全国大会は、さらに絵梨菜伝説を輝かせることになる。
注目の中、一回戦を勝ち上がった都立鳩ガ丘高校は、二回戦で愛知ユーカリ女子と対戦。
ユーカリ女子は前年の高校三冠校で、公式戦96連勝中の最強校だ。
その女王に対して敢然と打ち合いに挑んだ絵梨菜。第1セットこそ落としたものの、いつしか超満員の観客の応援に後押しされるように徐々にペースを掴むと、なんと第2セットを奪い返したのだった。
女王ユーカリ女子も堂々と正攻法で打ち合いに応じたが、ここでも決着を付けたのは絵梨菜だった。
最終セットの勝負所でサーブに立った絵梨菜は、強烈なスパイクサーブを連発し、なんと8連続得点を奪ったのだ。そのうち5点がサービスエースだったのだが、後に絵梨菜自身が『今までスパイクサーブが2本以上続けてコートに入ったことなど無かったのに』と首をかしげるほどの入神のプレーだった。
これで一気にリードを奪った鳩ガ丘高校は、必死に追いすがるユーカリ女子の反撃を耐えきり、セットカウント2ー1でついに無敵の女王を下したのだった。
勝敗が決した瞬間は、まるで優勝が決まったかのごとく怒号のような歓声の中、絵梨菜たちは手を取り合って飛び跳ね、うれし涙を存分に流した。
勝利の瞬間に立てられたネット掲示板のレスは瞬く間に1000件で埋められたが、これは阪神タイガース優勝の瞬間に匹敵するペースだった。
2回戦では異例の勝利者インタビューに涙ぼろぼろの状態で引っ張り出された絵梨菜は、まずは謙虚に敗れたユーカリ女子の強さを讃えたのだが、そこに厭味なところは微塵もなく、その後ユーカリ女子のキャプテンからあらためて握手を求められた。
テレビで大映しにされた潤んだ瞳、涙も乾かぬ艶やかな肌、その晴れやかな中に愁いを含んだ表情に、テレビを見ていた同世代の男の子たちは宿命的な恋に落ちた。

だが、絵梨菜と鳩ガ丘高校の快進撃はそこまでだった。
準々決勝の相手、九州の強豪熊本清正学園は、第1セットから徹底的にサーブで絵梨菜を狙う作戦を取ってきた。
前半こそうまく対応して五分に渡り合ったものの、徐々に連戦の疲れからかミスを続けるようになり、結局第1セットを失ってしまう。
こうなれば経験の少ないチームは浮き足立ってしまう。ミスの連鎖反応。
絵梨菜は懸命にチームメイトたちを激励しながら目まぐるしくフォローに回ったが、一度失ったペースを取り戻すことは出来なかった。
勝利を確信した清正学園は、疲れの見える絵梨菜にさらに集中攻撃を仕掛け、サーブで崩された絵梨菜は6連続でポイントを許してしまう。
第2セットは25ー6の完敗。
テレビで見ていたファンもがっかりしたが、それでもある意味絵梨菜は期待を裏切らなかった。
試合後、絵梨菜は大粒の涙を流しながら、チームメイトたちに『ゴメンね、ゴメンね』と声を掛け続け、その声をテレビのマイクが拾って流れるや、ふだんバレーボールに興味のない人々でさえ思わずもらい泣きしてしまい、会場の拍手は勝者よりも絵梨菜に対して鳴り止むことが無く、やがてそれはスタンディングオベーションへと変わっていった。
泣きじゃくりながら応援席に礼をする絵梨菜の顔がテレビでアップになった時、いつの頃からか絵梨菜に対して使われていたキャッチフレーズが実況のアナウンサーによって叫ばれた。
人呼んで『泣き虫エリナ』。
(つづく)

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2010.11.28 Sun l 泣き虫エリナ l コメント (4) トラックバック (0) l top