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川添一平は、23歳にしてすでにヘロヘロだった。
サラリーマンになって1年と少し。時代はバブルなどと呼ばれていたが、浮かれていたのは、ごく一部の人間だと思った。
別に希望に胸を膨らませて社会人になったわけでもなかったけれど、連日の深夜残業に休日出勤、わがままな顧客への対応、貴重な休みの日には強制的に組合の行事にまで参加させられて、身体中にチリのような疲労が降り積もっていた。
本来、陽気で快活な性格のはずなのに厳しいノルマが一平から笑顔を消し、学生時代は友達を笑わせずにおかなかった飲み会は、単に上司のお説教会でしかなかった。
人当たりはいいのだが、それが仇となって商談はいつも相手のペースで進んでしまい、結果的に利益はさっぱり上がらず、連日上司の叱責に曝されて一平の心のスタミナを奪って行った。
(われはどこから来たのか?われは何者か? われはどこへ行くのか?)
厳しい社会に出て初めて哲学の意味を悟った一平。10年後の展望すら描くことが出来ず、若いのに過労死やうつ病のことばかりが妙に気に掛かるのだった。

本当は映画関係の仕事に付きたいと思っていた。
『仁義なき戦い』に心を昂ぶらせた中学時代。山口百恵、三浦友和のゴールデンコンビによる純愛映画に心を震わせた高校時代。そして渥美清、山田洋次という二人の天才が築き上げた寅さんシリーズに泣いたり笑ったり。
倉本聡や山田太一のような人の心を動かすシナリオライターになりたいと思い、大学では映画研究部に入部。自主制作の映画にも携わった。
そしてその時、自分の書くシナリオが箸にも棒にも掛からない代物だということを思い知らされることになる。
好きだと言う熱意だけで、どうにかなる世界ではない。野球好きが、いくら練習に明け暮れたところで江川卓や原辰徳になれないのと同様、結局は才能の世界なのだ。
一平は映画界入りに早々と見切りを付けると、たいした展望も無しに無名の食品系の商社に就職した。
いつしか、大好きだった映画を見る余裕すら、一平から失われて行った。

そんな一平の許に、晴天の霹靂のような電話を掛けて来たのは、大学時代の映画研究部で3年先輩だった村田蔵六(ぞうろく)だった。
村田は、学生時代から年間300本以上の映画を観る(もちろん映画館で)ツワモノで、その知識と理論は他の部員の追随を許さず、母校の映研出身者としては唯一人映画界に飛び込んだ、一平たちからすればヒーロー的な存在で、今は大手の映画会社で助監督を務めていた。
『おい、一平!おまえ、映画の仕事をやらないか?』
受話器が割れそうな大きな声。バイタリティーは相変わらずのようだ。
「え、映画って…僕に映画の仕事をさせてもらえるんですか?」
一平の声は、思わず上ずった。
『おうよ!まあ臨時の仕事だけど、急にフォースが辞めちまってな。どうしようかと思ってた時、おまえを思い出したんだ。おまえ、意外と気が利くし、コマ鼠みたいによく働くからな。どうだ?やってみないか?』
考えるまでもなかった。憧れの映画の仕事、そして今の地面を這いずり回るような生活から逃れられるのなら、フォースだろうが大道具だろうがエキストラだろうが、なんだってやれる。
「よろしくお願いします!」
一平は、受話器を手にしたまま、深々と頭を下げていた。
『そうかそうか。そう言ってくれると思ったよ。で、今撮ってるのはポルノなんだけど、おまえポルノ系好きだったよな?』
村田はロマンポルノで名高い、東活映画所属だった。
「ポルノ!もちろんです!自分、映研内に『ロマンポルノ研究サークル』を立ち上げてたぐらいですから!で、主演は誰なんですか?」
『飛鳥ひろみ』
「あすか…ひろみ…」
一平は、夢かと思った。高校時代、友達と大人びた服装をして、歳をごまかしながら初めて見たポルノ映画が飛鳥ひろみのデビュー作『感じまくりの18歳』だったのだ。
(つづく)

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2011.09.22 Thu l 燃えろ一平!幻のデビュー編 l コメント (0) l top
18歳の役と言っても、当時すでに飛鳥ひろみは20歳をいくつか超えていたはずだが、清純派アイドルのようなルックスで、当時の嫁さんにしたいタレント・ナンバーワンだった竹下景子をさらにグラマーにした感じ。ピンクの乳首の眩しさは今なお鮮明に覚えている。
その後も一平は、ロマンポルノの清純派スターとなった飛鳥ひろみ見たさに、もぎりのオバサンの冷たい目にさらされながら幾度となく映画館に足を運んだ。
当時、飛鳥ひろみ主演のポルノ映画は年間10本近いペースで撮られていたから、さすがに全作見るのは無理だったが、それでも一平は、ひろみの映画からいろんなものを学んだ。
ロマンポルノは基本的に3本立て上映で2週間で番組が変わること。大作(?)の場合は2本立てで、映画によっては1ヶ月のロングラン(?)上映が行われること。そして、映画で繰り広げられ性愛描写全般を食い入るように見入った。
いろんな作品を見るに連れ、一平のポルノを見る目は『欲情』から『観察』へと変わって行った。
この角度のひろみさんの表情はあまりキレイじゃないとか、男優のあえぎ声が大き過ぎて気になるとか、このシチュエーションでいきなり後背位でつながるのは不自然とかとか…
童貞のクセに、ついつい不満な点ばかりが目に付いてしまったが、それも飛鳥ひろみにいい作品に出てもらいたい一心から。いつしか一平の目は、セックスシーンよりもむしろドラマの部分に注目するようになっていた。
『ドラマの部分をないがしろにするポルノは駄作だ』
一平には、そんなポルノ哲学が確立され、飛鳥ひろみのためにシナリオを書き下ろしさえした。
当時の一平は、ポルノ映画館の暗がりの中で、映画を、そして人生を学んだのであった。

その飛鳥ひろみも30歳を目前にする年齢となり、仕事量は減り、主演作もめったに上映されなくなっていたが、それでも一平からすれば何度もマスターベーションに使わせてもらった女神と呼んでもいい存在だった。
(もしかしたら、ひろみさんのおっぱいが見られたりするのだろうか…)
受話器を持つ一平の手が小刻みに震えた。

『と、言うことで話は決まったな。明日からこっちに来い』
あまりのことにボーッとしていた一平の耳に村田の声が再び聞こえて来た。
「えっ?明日?…いくらなんでもそれは…」
『ハア?なに眠たいこと言ってんだ?急な欠員が出たから、お前に声を掛けたんじゃないか。明日から来られないと意味ないぞ』
「でもですねえ、うちの会社は退職する場合、最低でも1ヶ月前に意思表示をするとの規約が…」
『はあ?わかったよ!もういい!他を当たるから聞かなかったことにしてくれ!』
村田が電話を切りそうな気配に一平は焦った。ここを逃したら二度と映画界に身を投じるチャンスはない。
「ちょっと待ったー!」
『…』
「わ、わかりました!すぐに行きます!でも…なんとか…1日だけ待ってもらえないでしょうか?」
切羽つまった一平の請願に村田も折れてくれた。
『しょうがないなあ。じゃあ明後日だ。明後日の9時に調布の撮影所に来い。守衛のオヤジにオレの名前を言えば、わかるようにしとくから』
「あ、はい。承知しました。ありがとうございます!」

再び受話器を握ったままお辞儀してから電話を切った一平は、自分の膝がいまだに震え続けていることに気が付いた。
新たな世界に挑む武者震いか、いきなり上司に退職を願わなければならない戦慄か。たぶん両方なのだろう。
だが、すでにサイは振られたのだ。夢にまで見た映画の仕事。明日は土下座してでも退職を願い出るしかない。
一平は興奮と不安で、眠れぬ夜を過ごしたが、やはり希望の方が大きかった。

明け方、うとうとしながら夢を見た。
飛鳥ひろみが妖艶な笑顔を浮かべながら着ている服を一枚づつ脱いで行く。そして一平に向かって言った。
『こんな感じでいいですか?監督』
(つづく)

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2011.09.23 Fri l 燃えろ一平!幻のデビュー編 l コメント (0) l top
案の定、一平の辞表を見た部長たちが激怒した。しかも、その日限りで退職したいと言うのだから怒るのも無理は無い。この会社だってギリギリの経営状況で余分な人員など一人もいないのだ。
それでも一平の心はすでに決まっていた。
なじられようと足蹴にされようと、翌日から撮影所に通う。実際、電話一本で退職を告げた同期入社もいたが、こういう場合、上司や同僚に頭を下げて回るのも人としての義務だと思った。
「わかった、もういい!退職金はもちろんだが今月の給料も無いからな!」
部長にそう怒鳴られて焦ったけど、なんの男一匹食べていくぐらいなんとかなるだろう。
一平は深々と頭を下げながらも、心は映画の世界へと飛んでいた。

東活映画株式会社は、かつて数多のスター俳優を抱え、アクション路線、純愛路線で日本の映画界をリードしてきた映画会社だ。
しかし、1960年台からのテレビの台頭により徐々に観客減が始まり、やがてスターたちも独立してテレビに活路を見出すようになって行った。
そして、急激に経営が悪化した東活を救ったのが、それまでキワモノ扱いをされていたポルノ路線だったのだ。
裸の若い女性さえ出しておけば別に大物俳優が必要なわけでもなく、とにかく制作費が安くて、しかも一定の集客が見込めるポルノは、東活の救世主でありドル箱ともなり、『東活ロマンポルノ』の名称で多くの作品が作られて行った。
この物語の舞台となっている1980年代になると、作品のマンネリ化やビデオデッキの普及に伴うAV(アダルトビデオ)の台頭もあり、急速に興業成績を落としつつあったが、それでも若い映画人が中心となって、それなりの活気を保っていた。

ロマンポルノ路線の功罪はいろいろあるだろうが、功績の第1は多くの若い人材を映画界に送り出したことだろう。
ポルノ路線は、粗製濫造と言えるぐらい多くの作品を送り出したが、それを賄うために東活が抱えていた助監督陣を、まとめて監督デビューさせた。
とにかく、エロでさえあれば内容なんか二の次のポルノ路線を逆手に取り、若い監督たちは好き勝手に冒険的、実験的な手法で映画を撮り、それらの作品群が一部ファンや批評家に評価された。後にそれらの若手監督たちが続々と一般映画を撮るようになり、いつしか日本映画界の中枢を担うようになっていた。
きら星のごときポルノ女優たちは、若さを武器に、しなやかな裸を見せまくって日本中の男たちに夢と希望を与えたが、何人かの女優はうまくポルノを卒業し、中には人気テレビドラマのレギュラーを獲得した女優もいた。
まあ、ほとんどの女優は頃合いを見て結婚するなどしてファンの前から姿を消して行ったが、ポルノ出演を芸能界入りのきっかけにしようとする、したたかな子も多かった。

意外と検討したのが男優陣で、ポルノ映画では女優の刺身のツマのような役回りでしかなかったのだが、個性の強い役者が多かったのか、やがて何人かは一般映画やテレビドラマに進出し、中にはヤクザや刑事の役で主役を張る者すら現れた。
多くのスタッフや俳優陣にチャンスを提供し続けた東活ロマンポルノは、1990年代にその幕を下ろすことになるが、日本映画界にいろんな面で大きな足跡を残したことは間違いない。
(ちなみに2010年、『ロマンポルノ復活』と名売って、かつて一世を風靡した『団地妻』シリーズなどが製作された)

一平は日給制のアルバイト扱いだったが、それでも『助監督』の肩書きが与えられた。
もっとも一平の仕事はフォースと呼ばれるポジションで、言ってみれば雑用係だ。
助監督はチーフからセカンド、サード、フォースと、はっきりしたヒエラルキーがあり、大作映画だとフィフスまで存在する。
チーフ助監督は副監督とも呼ぶべき存在で、映画の進行の一切を取り仕切り、撮影がスムーズに進かどうかはチーフの手腕にかかっていると言っても過言ではない。
タイトルクレジットで『助監督』として名前が乗せられるのは通常はチーフだけだ。
ハリウッドでは、『映画監督は素人でも出来るが、助監督(アシスタントディレクター)はプロフェッショナルでなければ勤まらない』という格言があるぐらいで、1流の助監督になると、監督よりギャラが高いことすらある。
(つづく)

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2011.09.24 Sat l 燃えろ一平!幻のデビュー編 l コメント (0) l top
かつての日本映画界では、助監督で修行を積むことが映画監督への唯一の道であったが、近年はアマチュア映画やテレビ演出家などから直接、商業映画の監督に転進する例が多く、助監督は徐々に専門職化して行く。
チーフの下にセカンド助監督がいるが、実際に監督の下で撮影に携わるのがこのセカンドで、あまり重要でないシーンやエキストラの演出などはセカンドが指示を出すこともある。
一平に声を掛けた村田蔵六がこのセカンド助監督で、その下にサード助監督がいて、さらにその下が一平だった。
現場に慣れない新人がまず与えられるのがカチンコ打ちと呼ばれる仕事で、シーンナンバーを書いたカチンコをカメラが撮影し、カチンコが打ち鳴らされる瞬間から演技が始まる。音声もカチンコの音を合図に合わせられるから、けっこう重要な仕事でもあり、始めはタイミングがつかめずに怒鳴られ通しだったが、それでも徐々にコツを得て行った。
俳優やスタッフの時間調整や、大道具部、小道具部との連絡役など、こまごまとした仕事が多くて目の回るような忙しさ。撮影は連日深夜にまでに及んだが、それでも一平は充実した毎日を過ごしていた。
どんなに大変でも好きな仕事をしているのだ。
一平は映画の仕事に携われることを村田と神様に感謝した。
村田が言った一平評、『意外と気が利いてコマ鼠のように働く』は、一平の性格をよくあらわしていたし、上司とすれば使い勝手の良い道具でもあった。

映画のタイトルは、『赤い愛欲の女』という原作付の作品で、ロマンポルノとしては大作の部類に入るかもしれない。
もっとも製作費はたいしたことがないので、ほとんどがスタジオ内でのセットによる撮影だが、調布にある専用の撮影所を使えることにより製作費を抑えられることが、東活ロマンポルノの大きな強みであった。
監督は大原銀次郎。東活アクション時代からメガホンを取るベテランで、石原裕次郎や渡哲也主演の映画を数多く手掛けた。通称『早撮り銀さん』。どんなにタイトなスケジュールでも、きっちりと締め切りに間に合わせ、そこそこの作品に仕上げる職人芸。ただ、学生時代から大原作品を見てきた一平からすれば、彼の作品は妙に暗くて躍動感に乏しく、あまり好きな監督ではなかった。
しかし、初老とも言える年齢ながら長身でスリム、いつもテンガロンハットにレイバンのサングラスを掛けた姿は、なんとも貫禄がありカッコよかった。

映画の内容は、戦時中に中国に送られた従軍慰安婦と日本軍将校との恋愛という少し重い内容の映画だったが、映画の内容のことまで考えるのは監督と脚本家とプロデューサーぐらいのもの。現場の人間たちは、台本とチーフ助監督が作った香盤表(スケジュール表)に従い、ただ忠実に撮影を進めて行くだけだ。
まさに歯車に徹するわけだが、同じ歯車でも食品会社の営業と違って、好きな仕事をやっているという充実感が一平を高揚させた。

一平が助監督に付いて初めての撮影は、日本の農村から娼婦として遠く中国大陸に売られて来た若い女性たちが、関東軍将校たちの前に素っ裸で引き出され品定めされるというシーンだった。
台本を読んだ時、なんともひどい設定だと一平は嫌な気持ちになったが、もちろんそんなことを顔に出せる立場ではない。だいたい日本の軍人を非人道的に描くのは当時のトレンドだったのだ。
まあそんなことより、撮影初体験の日に、目の前に10人もの若い女性の全裸が展開されることの方が一平にとっては一大事だった。
スタジオに組まれたのは満州・奉天にある日本料亭の畳敷きの大広間という設定。酒に酔った軍人たちが裸の女たちをからかったり嘲笑ったりしながら、やがて気に入った女の手を無理やり引っ張っては三々五々別室へと消えて行く…という暗いシーンなのだが、リハーサルに臨む10人の女優たちには、まったく屈託が無かった。
リハが始まるまでは全裸にバスタオルだけを体に巻いて、ワイワイガヤガヤ銭湯の脱衣場のノリで賑やかだ。
「おい、一平!そろそろカメリハいくぞ!」
セカンドの村田の声が飛んだ。
「あ、はい!それでは皆さん、その…タオルを…」
「あらら、このお兄さん、赤くなっちゃってるよ。女の裸見るの初めてかしら?」
「ホントだ。新人さんね?カワイイ」
「イ、イヤ~そんな…」
「こら一平!早くやれ!」
村田の怒声に、一平の指示より早く女優陣がパッパと気前よくタオルを取り払った。
(つづく)

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2011.09.25 Sun l 燃えろ一平!幻のデビュー編 l コメント (0) l top
スタジオの明るい照明の下、10体の裸体があらわになり20個のおっぱいが踊った。
(ひ、ひえ~)
思わず心の中で悲鳴を上げた一平。さすがにポルノ女優を志すだけあって、女優たちはみんな若々しくフレッシュで美しい肢体の持ち主だった。
誇らしげに豊かな乳房を押し出す子、大きさはそうでもないものの美しいシルエットのおっぱいの清純派。たっぷりとしたお尻や引き締まったお尻。脚の長い子や、すでにお母さん体型の子もいたが、それもまた個性。
肉体の特徴が千差万別な分、男の好みもいろいろと言うことだろうが、みんなそれなりにそそるものを持っていた。
ほとんどの子が一平より年下に見えたが、全裸になってなんら臆しない姿は、おどおどする一平などより、はるかに貫禄があった。
そして女優たちは全員が股間のヘアーをキレイに処理してあったが、これもプロ意識と呼ぶべきものだろう。
当時ももちろんヘアーが画面に映ることはご法度だったし、モザイク技術はまだ未熟で、ボカシも面倒かつ無粋だったので、ほとんどカメラワークと編集で性器が映り込まないよう工夫していた。だからポルノ女優たちはヘアーをキレイに剃り上げるのが義務となっていた。脱毛技術が進んだ現代とは違い、当時は女優自らがカミソリで剃っていたのだった。

それにしても、これだけの人数の裸の女体を見るなんて、小さい頃、母親に連れられて入った銭湯の女風呂以来のことだと思った。
裸に囲まれ、一平はめまいがしてポーッとなってしまったが、もちろんそんな暇は無く、女の子たちの脇に控えて上司である村田の指示を待った。
女優たちが決められた立ち位置に着き、大原監督がカメラの脇でディレクターズチェアに座って長い脚を組んでレイバンを光らせる。撮影監督の高羽がカメラを覗き込み、村田はその横で大原と高羽の様子をチラチラと伺っていた。
「おい、右から3番目、毛が見えちゃってるじゃないか」
カメラを覗き込んだまま、高羽が苛立った声で文句を言った。
「ルミちゃん!ちゃんとヘアーは処理しておいてって言っといたでしょ。一平!前張り!」
早速、村田の指示が飛ぶ。
「ハイハイ!」
一平は、バンドエイドを大きくしたみたいな前張りと呼ばれるテープを持って、橘ルミの元に急いだ。
「前張り嫌いなのよね。剥がす時、痛いしさ。一平君、うまく貼ってよ」
身長は低いけど、ロケット型のキレイな乳房をしたルミが、不貞腐れるように一平に訴えた。
「…へ?」
「ほら、早く」
ルミが、ズンと下腹部を突き出したので、一平はどぎまぎしながらも仕方なくその前に屈み込む。
目の前に、ふっくらとしたお腹があり、その下にくっきりとした割れ目のライン。なにやら突起物が割れ目からちょっぴり顔を覗かせているような…
よく見ると、たしかにタテの割れ目の脇に、伸び始めた陰毛が何本かチロチロしていて、いかにもルミの鷹揚な性格が伺えた。
ルミの下腹部を目の当たりにして、一平は再びめまいに襲わそうになるも、『いかんいかん!これは仕事なんだ』と自分に言い聞かせ、あたふたとテープの保護紙を剥がした。
「一平君、前張り貼るより、キレイに剃ってあげればいいじゃない?」
脇役ではベテラン格の結城美沙子が悪戯っぽく言い、それを聞いた他の女の子たちがドッと沸いた。
「だったら私のも剃ってよ。自分で剃ると剃り残しが多いのよね」
すかさず他の女の子がチャチャを入れてくる。
「あんたの剛毛だから、カミソリが歯こぼれしちゃうんじゃない?」
「ひど~い!私のは髪の毛同様サラサラヘアーよ。あんたこそ、お尻の方までびっしりなんでしょ?」
「失礼ねえ!」
収拾が付かなくなってオロオロする一平に、『一平、早くしろ!』と、村田の怒鳴り声。カメラの方を見れば、監督は呆れ果てているし村田の目は三角だった。
(つづく)

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2011.09.26 Mon l 燃えろ一平!幻のデビュー編 l コメント (0) l top