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一平はカチンコを手に持ちカメラの方に向けると、
「シーン39、カット8、テイク1」
と、はっきりとした声で告げ、『カチン!』と、ハサミ状のカチンコを甲高く鳴らし、この瞬間から本番撮影が始まる。
一平は素早くベッドの前から離れると待機姿勢を取ったのだが、ベッドを見上げてギョッとなった。
ベッドに仰向けになった宮下の下半身に覆い被さるようにひろみがフェラチオをするシーンだったが、一平の側からは四つん這いになったひろみの股間がまともに見えるのだ。
ひろみも宮下も前張りを付けなかったので、ひろみの素の性器を後ろから覗き込むことになる。
さすがにキレイに陰毛は処理してあるから、少女のようでもあり、しかし黒ずんだ大陰唇は熟れ切っていてなんとも悩ましい。
一平は撮影に参加してから何度目かのめまいに襲われ、目を逸らしそうになったが、いつ上司の指示が出るかもしれないので、懸命にベッド上を見つめていた。一平には役者の汗を拭いたりシーツを直したりの雑用がいきなり飛んでくるのだ。

それからいろんな体位での性交シーンが撮られたが、さすがに本番に強いと豪語するだけあって、ひろみは無難に撮影を進めて行った。
この当時はビデオではなくフィルムでの撮影だから使い回しが効かず、NGを出すことはお金と時間を垂れ流すことになり、低予算の映画では命取りになりかねない。
その点では、ほとんどのシーンを一発でOKを決めて行ったひろみも宮下も、そして監督の大原もさすがだと思った。
でも一平は不満だった。基本的にひろみの演技はリハの時から変わってはいない。監督の指示通りに動いてはいるが、明らかに熱意が欠けているのだ。
それが証拠に全裸の宮下のペニスは縮こまったままだし、チラチラ覗くひろみの性器は渇いていた。
もちろん演技なのだから一々本気に発情することなどあり得ないのは知っている。でも、演じる人たちが醒めていて観客を欲情させられるものなのだろうか?
飛鳥ひろみほどのポルノ女優ならば、演技でも本気に欲情して欲しい。無理を承知で一平はそう思った。
菅原文太は池玲子とのラブシーンで本気で挿入したというエピソードを残しているが、男優をその気にさせるぐらいの『熱』をひろみには望みたかった。
当然そんなものは無い物ねだりだ。一平の気持ちとは裏腹に撮影は淡々と進み、無事、本日の撮影予定を消化した。
一平は本番の前に盗み聞きしてしまったひろみの電話が、微妙に演技に影響しているのだろうかと思ったりした。
ひろみは、さっさと下着を付け和服を羽織るとスタジオを後にし、一平はその後ろ姿に『お疲れさまでした』と声を掛けたあと、撮影の片付けを始めた。

撮影は連日深夜にまで及び、一平のような下っ端は体力仕事が多くてヘトヘトになるが、そのあとはセカンド助監督の村田の仕切りで毎夜の宴会が繰り広げられた。
場所は撮影所の食堂で、ビールや安い焼酎や日本酒で乾杯を交わし、一平たち若手が買い出しして来た惣菜や弁当を食い散らかした。
一平は、もちろん初日から強制参加させられたが、サラリーマン時代の苦痛でしかなかった飲み会と違い、好きな映画に携わる者同士、楽しい酒を飲むことが出来て一平はまるで学生時代に戻ったような気分になれるのだ。映画作りに携わるのは毎日が学園祭準備のようなものだと思った。

宴会に出席した初日、村田に、『一平、なんか芸をやれ!』と命令され、売れっ子テレビ芸人のモノマネを見せたら絶賛され、調子に乗って今回の映画のスタッフや俳優のマネも開陳して爆笑を得た。
一平は小学生の頃から人や動物の真似が得意で、妙に人気があったのだ。
怒られるのを覚悟で大学の先輩でもある村田のモノマネを演じて皆が笑い転げ、案の定、村田に小突かれたけど当の村田も楽しそうだった。
夜の宴会には、たまにプロデューサーの狛江清豪もやってきたが、高そうなワインやローストビーフ、チーズなどを差し入れてくれたので、若いスタッフたちの楽しみになっていた。医者に止められているとかで自分は酒を飲まなかったが、若い者と楽しそうにしゃべっていた。
(つづく)

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2011.09.30 Fri l 燃えろ一平!幻のデビュー編 l コメント (0) l top