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(おことわり)
『燃えろ一平!幻のデビュー編 6』において、後半につながる伏線を書き忘れていたので、内容を少し書き直しました。
ご了承ください。


午後から、この映画の主役である飛鳥ひろみの撮影が始まった。
信州の山深い田舎から親を助けるために女郎に身を落とし、流れ流れて満州にたどり着いた娼婦ユキというのがひろみの役どころ。
一方、同じ信州の貧しい農家から刻苦勉学して陸軍士官学校に入り、今は関東軍の情報将校である杉山大尉。二人は運命の糸に手繰り寄せられるように奉天の街で出会い、宿命的な恋へと落ちる。
時は昭和20年8月。すでにソ連の参戦を察知していた杉山大尉は生きて祖国に帰ることをあきらめ、せめてユキだけは日本に帰そうと思っていたが、ユキは杉山とともに満州の土になることを望む…
とまあ、そう言った内容の映画だった。

この日の撮影はソ連軍の侵攻によりパニックに陥る奉天日本人街の旅館の一室で、ユキと杉山がひたすら愛欲に溺れるというシーンの収録。スタジオ内には旅館の一室を模したセットが組まれ、中央に置かれた木製ベッドの前に多くのスタッフが集まって異様な熱気だ。
主役のひろみの撮影だからか、プロデューサーの狛江清豪もカメラの後方に控えている。
カメラ位置や照明を確認するため、一平とサード助監督の沢村がベッドに上がらされた。沢村が杉山大尉、一平がユキの代役だが、汗っかきの沢村を抱き合うのは仕事とは言えつらいものがあった。
監督のOKが出ると一平は慌てて沢村から離れ、主役の二人を呼ぶべく控え室へと走った。
まずは杉山大尉役の宮下輝夫に声を掛ける。宮下はロマンポルノ界では一番のハンサム俳優で、年間20本以上の作品に出ている売れっ子だったが、満を持して進出した一般映画では端役扱いしかされないため、最近とみに機嫌が悪いとの噂だった。
「宮下さん、本番お願いします」
旧帝国陸軍の軍服を着た宮下は、一平が声を掛けても返事すらせず、タバコを揉み消すと黙って立ち上がった。
その足で飛鳥ひろみの控え室へ急ぎ、ノックをしようとした瞬間、中から『もう、いい加減にして!』との金切り声が聞こえた。
一平が凍り付いていると、続けて、
「あれっきりって約束じゃない。もうお金なんか無いわよ!」
と、切羽詰まった声。おそらく電話で誰かと話しているのだろう。かなり深刻な雰囲気だが撮影の時間が迫っているのだ。どうしようかと立ち尽くしていた一平の耳に、
「とにかく今はどうしようも無いわ。これから撮影だから後で電話する」
と告げ、チンと言う音とともに受話器が置かれた気配がした。
一平はホッとして一呼吸置いてからノックをし、廊下から、『飛鳥さん、本番お願いします』と、控えめに声を掛けた。
「あ、はい…すぐに行きます」
中からのひろみの戸惑った声を聞き、一平はそっとドアを離れた。

リハーサルが始まった。
着衣での演技の後、いよいよ濡れ場のリハだ。
宮下輝夫がTシャツにトランクス姿になった後、飛鳥ひろみが和服の衣装を脱いで、ブラジャーとショーツだけの姿になったのを見て、一平は密かに緊張した。
ひろみと宮下は、監督の指示のもと、いろんなポーズで抱き合って見せた。わずか5分ほどのシーンにフェラチオ、正常位、騎乗位、後背位と、内容はてんこ盛り。ポルノと言えども始めから最後までセックスシーンばかりだと観客も飽きてしまう。深刻なドラマの合間にスピーディーに濡れ場を挟むのが今回の大原監督の狙いのようだ。
だが、ベッドの脇で小さくなっている一平の目から見ても、演技する飛鳥ひろみからは、まったくやる気が感じられなかった。すべての動きがおざなりで、いい加減なのだ。
リハーサルとはこういうものかとも思ったが、監督の大原やセカンド助監督の村田も戸惑い気味なのがありありだったので思いは同じなのだろう。
「監督、大丈夫ですよ。私、本番に強いんですから。本番行きましょう」
スタジオの妙な空気を遮るようにひろみはそう言うと、その場でブラジャーを取り、スルスルとショーツも脱いで全裸になってしまったので、大原監督は仕方なさそうに、『よし、本番!』と、しゃがれ声を上げたのだった。
いよいよカメラが回るのだ。
(つづく)

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2011.09.29 Thu l 燃えろ一平!幻のデビュー編 l コメント (0) l top