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おしっこを終えてトイレを出ると、ドアの前に体にバスタオルを巻いた母が立っていた。
「愛美ちゃん…起きてたの?」
ちょっと恥ずかしそうな母の声。
「違うよ。お母さんの声で目が覚めちゃったんだもん!」
私が口を尖らせて批判ぽく言うと、母は慌てて、
「あ、そう…ごめんね」
と顔を伏せた。
ちょっと意地悪な言い方をしたと後悔した私は、急いで、
「別にいいけど。それにしても仲良しだね」
と、笑顔を交えてフォローした。
入れ代わりに母がトイレに入り、私は部屋に戻って、もう一度布団に入った。

9時頃、3人で朝食を取った。
狭い部屋なんだし、エッチ直後に私と母が鉢合わせたことは三浦さんも気付いてるはずなのに、何食わぬ顔。大人の対応ってヤツだ。
私も静かに味噌汁をすすった。
「愛美ちゃん、今日はお友達と会うんでしょ?何時くらいに戻れる?」
「う~ん、どうなるかわからないから、ホテルで合流しようよ。京都駅の前の大きなホテルだよね?」
この日は土曜日。母と三浦さんは午後から京都見物に出掛け、夜にはホテルのレストランで、3人で食事しようということになっていた。
私が市内観光に同行しないのは他に予定があったから。今回の旅行の第一目的と言えるかもしれない。
「愛美ちゃん、こっちにお友達がいるの?」
三浦さんが聞いてきた。
「うん。中学のクラスメートの女の子がこっちに引っ越してきてるの。私が京都に行くって連絡したら、久しぶりに会って、お茶しようってことになって…」
実はウソである。会うのは男の子。しかもまだ一度も会ったことのない子だ。

私は、中学のころから『夜空』というハンドルネームで細々とブログを書いていた。ほそぼそと言ったのは、マメに毎日更新を目指すわけでもなく、思い付いた時に日記代わりに書いてきただけだから。
だから読者も少ないし、訪問してくれたからと言ってお返しに誰かのブログを訪問するわけでもない。日々の出来事の他、好きな音楽やテレビ番組、小説のことなどを思いつくまま短く書き連ねただけ。
当然、読者も少ないのだけど、たまにコメントを入れてくれた『神名綾人(かみなあやと)』というHNを持つ、同年代の男の子とは妙に気が合った。
『神名綾人』は、人気SFアニメの主人公の名前で、私もけっこう好きなアニメだったし、逆に私のHN『夜空』は、神名綾人お気に入りアニメキャラの名前だったりする。
他にも気が合ったりセンスを同じくするところが多く、私は読者の中では『神名綾人』だけを特別扱いしてコメントを交換し、いつしかチャットで会話を交わすまでになっていた。
『アヤト君』、『夜空ちゃん』。
私たちはそう呼び合って近況を報告しあい、日によっては夜を徹して政治論議を闘わせることすらあった。
リアルで、ほとんど親しい友だちを持たない私としては異例ではあったが、一度も顔を合わせたことのないアヤト君には強いシンパシーを感じるようになっていたのだ。
そして、その神名綾人は、京都在住の高校生だった。
(つづく)

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2012.11.28 Wed l 母と私とおじさんと+1 l コメント (4) l top