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「イエーイ!」
派手にハイタッチを交わす祐実とエリナに、前田がギラギラとした憎悪の視線を飛ばした。
その後も、ネットを挟んで繰り返されるエリナの囁き作戦。やれ『そう言えばゴジラ松井は今年はどこのチームでしたっけ?』とか『ユミさんは人気も実力もスゴいです。私は人気はあるけど実力が…あっ!実力はあるのにまるっきり人気の無い人もいましたね』とか。
そして前田は『お前!許さないぞ!』と顔を真っ赤にしながらも動揺し、面白いようにミスを続けた。
「よし!掛かったぞ!」
ほくそ笑む祐実たちの前で、入れ込んだ前田が勝手にミスを繰り返す。
「詩織、落ち着け!」
レッドエスパーダのキャプテンの小橋カナが叱ったが前田の暴走は止まらず、このセット、アルタイルがリードして進む。
「前田さん、顔が赤いですよ?あっ、もしかして私に気がある?ゴメンなさい。趣味じゃないんで」
前田は頭から湯気を上げながらエリナをにらみつけ、そしてエリナを狙ってスパイクを打ってはラインアウトを繰り返した。
もはや前田は平常心を失っていたが、それでも日本を代表するアタッカーだ。ついにジャストミートした強烈なスパイクがエリナの顔面を直撃した。
「キャッ!」
頬を押さえて倒れたエリナに祐実たちが駆け寄る。
「大丈夫か?!」
「…いた~い!…でも、大丈夫です」
エリナの左頬から目尻に掛けてが真っ赤に腫れていた。
(あの野郎、私の大事なエリナの顔を!)
前田はローテーションで後衛に下がりながら、『へっへっ』と爬虫類的な笑い声を上げている。
そして前田のサーブ、セッターに戻ったボールを怒りに燃えた祐実がアタック…と思いきや、背面トスに跳んだ岩村が前田を狙ってスパイクを打ち込んだ。
「ギャッ!」
不意を突かれた前田もまた顔面でボールで受けることになった。赤くなった鼻を押さえながら立ち上がった前田に、岩村が、
「ようゴジラ。男前が上がったじゃないか」
と笑った。
「テメー、岩村!」
ネットをくぐって岩村に掴み掛かろうとした前田をレッドエスパーダのメンバーが必死に止め、異様な展開に会場が湧いた。

「岩村さん、ありがとうございます」
エリナが興奮した声で岩村に礼を言った。
「別にお前に礼を言われる筋合いじゃない。前田とは同学年で、高校時代からいろいろあったんだ」
「でも嬉しかったです。ありがとうございました」
エリナに笑顔を向けられて、岩村が思わず赤面した。ここにもまた、エリナ100万ドルの笑顔の犠牲者が…

結局、前田はそこで交替させられて試合が再開されたが、勢いに乗るアルタイルがそのままこのセットを奪い取り、ついに1ー1のイーブンに追い付いたのだった。
(つづく)

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2011.01.30 Sun l 泣き虫エリナ l コメント (2) トラックバック (0) l top