2ntブログ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- -- l スポンサー広告 l top
「まったく、いつもこれくらい客が入れば、もっと給料が上がるのにな」
エリナに並んだ祐実がそんなことを漏らせば、カナが、『あんた、まだ貰うつもりか?』と呆れた。
その時、一人のレッドエスパーダの巨漢選手がのっそりと祐実に近付いた。
「ユミさん、お久しぶりッス」
全日本のエースアタッカーで、かつて祐実とひと悶着あった前田詩織だ。
「お、おお、詩織か…お前、ケガ治ったの?」
「ハイ、おかげさまで。なんとかシーズンに間に合いましたから、今日はガンガンいかせてもらいますよ」
「あ、そう…まあ無理するな」
前田詩織、身長187センチ体重85キロの22歳。全日本のエースアタッカー。膝の故障で今シーズンは静養していたが、リーグ戦最後の最後でなんとか間に合ったのだ。
(決して作者がその存在を忘れていたわけではない)
前田は松井秀喜に似た目でジロリとエリナを睨んだ。
「お前が『泣き虫エリナ』か?あだ名通り泣かしてやるよ」
「…お手柔らかに」
いかつい前田の脅しに、さっそくビビってしまうエリナ。
「厄介なのが戻ってきたわね」
キャプテンの荻原が祐実に耳打ちした。
「うん…でも故障明けだし、そんなには動けないだろう」

祐実のそんな希望的観測は試合開始後あっと言う間に崩れ去ってしまった。
前田は膝の故障などまったく感じさせない豪快な動きで、火の出るような鋭角のスパイクを浴びせかけた。
いきなり連続失点を喫したアルタイルは浮き足立つ。
「とりあえずあいつを止めなきゃ!」
祐実を中心に前田に対してブロックに跳べば、小橋は巧妙にバックアタックに切り替えてアルタイル側はまったくなすすべが無く、第1セットは大差で奪われてしまった。
「ダメだ。このままじゃストレートで負けてしまう。なんとかあの巨神兵を止める手は無いのか?」
ハーフタイム、うめくような祐実の声にエリナが答えた。
「ユミさん、私に考えが」
「なんだ?言ってみろ」
「怒らせましょう」
「…ハア?」
「見るからに単純そうな人だから、怒らせて平常心を失わせましょう」
「怒らせるたって…あいつが本気で怒って野性に戻ったら、私でも止められないぞ」
「…でも、それしかありませんよ」
「…」

第2セット開始早々、ネットを挟んで前田の方からエリナに話し掛けた。
「ユミさんが入って強くなったって聞いてたけど、全然たいしたことないなあ」
憎たらしい顔で上から目線の前田に、エリナが何食わぬ顔で言い返した。
「そう言えば前田さん、全然見掛けなかったから男子のリーグに移ったのかと思ってました。セックスチェックに引っ掛かったのかと」
「…なんだと?」
その瞬間にアルタイル側からサーブが打たれ、小橋が前田にトスを上げたが反応が遅れた前田がスパイクをネットに引っ掛けてしまった。
(つづく)

にほんブログ村 にほんブログ村へ
2011.01.29 Sat l 泣き虫エリナ l コメント (2) トラックバック (0) l top