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(やっぱり、ひろみさんはいい女だなあ)
一平は、ハイボールをグビッとあおりながら、あらためてひろみと体を合わせてみたいと思った。
ふと、今回の映画『ダイヤモンドダスト』のシナリオの一節を思い浮かべる。一平演じる亮一と、ひろみ扮する祐子の会話だ。

亮一『祐子さん…一人で重い荷物を持つより、二人で担ぐ方が楽に決まっています。どうか僕に、祐子さんの荷物を一緒に持たせてもらえないでしょうか?』
祐子『男の人はそう言いながら、やがて自分の重い荷物まで女に担がせようとするの。私はいつだって、そんな荷物に押しつぶされそうに生きてきたのよ。そういうのは、もうたくさんだわ』
亮一『そ、そんな!僕には担ぐべき荷物なんて一つとしてありません!僕はただ、祐子さんと同じ道を…』
祐子『あなたみたいな人を、うどん屋の鍋と言います。湯(言う)ばっかり…』

ん?これってなんかの映画のパクりじゃなかったっけ?朝間義隆?ヤバイ!村田さんに電話しなくっちゃ!イヤ、電話じゃダメだ。今から行って打ち合せだ。
一平はタンブラーを置くと慌ただしく着替え始めた。

誰も知らないことだったが、今回の映画は、実は一平が村田蔵六に企画を持ち掛けたものだった。いや、企画だけではなく、シナリオだって村田と共同で練り上げたものなのだ。もちろん飛鳥ひろみと共演するために。
一応、成功者と人に言われる自分のキャリアだけど、一区切り付けるためにも、運命の共演者たる飛鳥ひろみと、もう一度一緒に仕事をする必要があると思った。
ひろみへの思いは、芸能界入り後の一平の心の底に、いつも通奏低音のように流れていた。今こそ、その思いを直接告げなければならない。たとえ映画の力を借りてでも…
おそらく、一平は演じるうちに現実と演技の区別が付かなくなるだろうと予想していた。そんな思い入れの強すぎるところが、一平が映画出演を自粛する理由でもあったが、今回ばかりは手綱を緩め、一平の中の奔馬を思いっきり暴れさせたい衝動に駆られていた。
(自分が思いっきり暴れても、村田さんがうまく御してくれるはず。それが出来なきゃ村田さんは監督失格ということになる)
一平の胸が高鳴った。
(『ダイヤモンドダスト』に人間川添一平のすべてを賭けてぶつかってやる。ひろみさんも、きっと受け止めてくれるはずだ)
ひろみと共に映画を作ることが出来る喜びと興奮に、一平の心は燃えていた。

身だしなみを整え、一平はモニターの前に佇んで、まだ流れていた映像を眺めた。
果てた後の一平が、目を閉じてぐったりとひろみの頬に頬を重ねていた。
やがて、下になったひろみが目を開き、何かを言った。
『一平君、終わったわよ』
そう言ったはずだ。
映像の中の一平は、目を開けると、キョトンとした表情で、辺りを見回している。
ひろみが、仰向けになったまま、母親のような笑顔を浮かべ、そして唐突に映像が終わり、画面がブルー一色に変わった。
一平は立ったままリモコンを手にすると、モニターの電源を落とした。
(さあ、これからだ)
一平は、早く村田と映画の打ち合わせがしたくて、少し興奮していた。

一平の芸人人生、これからさらに、山あり谷ありの波乱万丈が続くことになる。だが、ひとまずここで、この物語を終えることにする。
(おわり)

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2011.10.29 Sat l 燃えろ一平!幻のデビュー編 l コメント (2) l top