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気を利かせた女性スタッフが、ひろみに長襦袢を手渡した。
「ありがとう」
ひろみは腰巻きでうまく下半身を隠しながら長襦袢を肩から纏い、一平の耳元に口を寄せると、小さな声で、
「こぼれちゃいそう」
と、ささやいた。
しっかりと腿を合わせながら立ち上がったひろみに、監督の大原が、
「ひろみ、いい演技だったぞ。また一緒に仕事しような」
と、語り掛けた。一平は大原の笑顔を、初めて見たと思った。
「ありがとうございます。みなさんのおかげです」
ひろみも落ち着いた風情で監督に応えたが、心なしかその声は震えていた。
「それでは今日は失礼します」
ひろみはスタッフ全員に頭を下げると、拍手に送られながらスタジオを後にした。
そして、一瞬だけ一平に向かって微かな笑みを含ませた視線を送って来た。一平はブリーフ1枚の姿で、慌てて頭を下げた。

セカンド助監督の村田に裸の背中を叩かれた。
「おい一平!お前、すごいじゃないか!」
瞬く間に若いスタッフたちが一平を取り囲んだ。
「オレ、こんなリアルな濡れ場、初めて見た」
「いや、スケベだけじゃなくって感動した!オレ、映画見たら泣くかも」
口々に一平に向かって賛辞を送る。
「それにしてもお前、マジでやってたんじゃないよな?あまりにも真に迫ってたから」
村田の心配そうな声に一平は、
「イヤだなあ村田さん、そんなことあり得ないでしょう」
と、慌てて否定した。
「だよな。裏ビデオじゃあるまいし、撮影中に本番やったりしたら警察のご厄介だ。そしたら上映禁止だぜ」
「そ、そうなんですか?」
一平は慌てたが、どうやら腰巻きの下で起こったことは誰にも気付かれてはいないようだ。
(あのことは…僕とひろみさんの二人だけの秘密なんだ。永遠の秘密)
一平は微笑んだ。
これでこの映画の撮影は、ほぼ終了し、あとは風景や簡単なカットを残すのみとなり、その夜の若いスタッフたちの飲み会は、ずいぶんとリラックスしたものになった。
そして、ここでも主役は一平で、みんなから演技を称賛され、その度にコップにビールを注がれた。
「あ~あ、せっかく一平をスカウトして来たのに、もうオレの下じゃ働いてもらえないな」
酔った村田が嘆いている。
「なに言ってんですか村田さん。これからもしごいてくださいよ」
「お前はこれから役者をやるんだよ。お前には不思議な才能がある。オレの下で雑用なんかじゃ、もったいないんだ。だいたい大原監督や狛江のジイサンが放っとかんよ」
そう言われると嬉しい反面、寂しくもあった。村田の下でずっと映画の仕事をしたいという気持ちも、やはり本心だったのだ。
照明助手の前原が、焼酎のお湯割りをチビチビ飲みながら言った。
「一平には真面目にやっても人をクスッと笑わせるようなユーモラスな面がある。村田君が言う不思議な才能ってヤツだな。いっそ、それを演技に生かしてみたらどうだい?『未亡人下宿』シリーズの久保新二みたいな役者になれるかもしれんぞ」
「ええ!ホントですか?自分、久保新二さん大好きですよ!」
「私は、むしろ一平君はテレビ向きだと見てるわ。アドリブが利くから舞台なんかも向いてるかも」
これは記録係のユミちゃんの一平評。今まで、ほとんど一平のことを無視していたユミちゃんも、今日の撮影を見て考えを改めたようだ。
「すごいじゃないか一平!順風満帆、将来はバラ色だな」
「いやあ、そんなあ…もっと言ってください」
「調子に乗るんじゃねえ!」
村田に頭をはたかれ、みんなが笑った。そんな楽しい雰囲気の中、一平は、『もしかしたら、今日が人生最良の日になるのかもしれない』と、微かな胸騒ぎを憶えた。

そして、一平たちが飲み会に興じていた、まさにその頃、飛鳥ひろみが警視庁に逮捕された。
(つづく)

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2011.10.22 Sat l 燃えろ一平!幻のデビュー編 l コメント (2) l top

コメント

えええっ!
ここで~!?
…まとめ読みすみません^^;

スマイルジャックさんがアメブロ考えてらっしゃるなら
私もまたアメブロでギリギリのエロに挑戦してみようかなあ^^
不当な権力にはあの手この手で抵抗したいのが物書きの性なんですかねぇ(笑)
2011.10.23 Sun l love-rs. URL l 編集
love-rsさんへ^^
こんばんは^^
なかなかお伺い出来ず、ご無沙汰してます<(_ _)>
アメブロ考えてるんですが、書く時間があるかどうか…
巨大な相手だけに、もう一度チャレンジしたいですね^^
2011.10.23 Sun l スマイルジャック. URL l 編集

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