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みんなに助け起こされ、イスに座ったところで、あらためて村田に平手で頭を叩かれた。
「お前、ホントにバカだなあ!監督に意見するなんて100年早いんだよ!」
「す、すみません…そんなつもりじゃ…」
一平としては、監督に意見するなんて気持ちは微塵も無かった。ただ、ひろみのことが気になる一心だったのだ。
村田がタオルを手渡してくれたので、それを唇に当てると血が滲んだ。
「飛鳥ひろみにやる気が無いことは、監督が一番わかってるんだよ。だからってスケジュールはギリギリ。納期に間に合わすのが監督の最大の使命なんだ。ひろみは最近ずっと気の抜けたビールみたいなもんだ。怒鳴ってよくなりゃいいが、ヘソを曲げられて役を降りられたりしたら、それこそアウトだ」
一平は黙って聞くしかなかった。
「黒澤明みたいに自分の気が済むまで撮り直せる監督なんて、ほんの一握りなんだぜ」
「はい…すみませんでした。オレ…生意気なこと言っちゃって…」
「もういいよ…明日、監督にもう一回謝っとけ」
「ハイ…」
「それにしても今日の飛鳥ひろみは、ひどかったな」
口を挟んだのは照明助手の前原だった。40歳を過ぎても助手に甘んじているが、気のいい男なので若手に慕われている中年男だ。
「ひろみのやつ、また妙な男に引っ掛かってるらしい。同じような男に何回も騙されて、結局金を引き出すだけ引き出されて捨てられるんだよな」
前原の話に村田が、
「それで演技に身が入らないって言うのか?金が必要なら仕事だけは一生懸命やればいいのに…」
と、こぼした。
「どうやら、ひろみにとっては今回の写真が最後の映画になりそうだな」
前原の言葉に、妙に座がしんみりとなった。
一世を風靡した人気ポルノ女優も、いよいよ潮時ということなのだろうか。たしかに今日のような仕事ぶりでは一般映画やテレビから声が掛かることもないだろう。
でも、映画の仕事が出来なくなれば、どうやって金を稼ぐのだろう…
一平は、控え室の前で聞いた『もう、お金なんか無いわよ!』という、ひろみの悲痛な叫びを思い出した。
「なんか暗くなっちゃったな。今夜はお開きにするか」
村田が座を締めたので若いスタッフが片付けを始めた。
「それから一平!お前、今夜は家に帰って着替えを持ってこい!臭くてかなわん!」
村田の声に周りから乾いた笑いが起こった。

一平は終電を降り、トボトボとアパートに向かって歩いていた。
大原に殴られたことがいまだに心を重くしている。自分にそんな気は無かったにしろ、監督のプライドを傷つけ怒らせてしまったのは確かだ。
村田が言うように、監督を始めスタッフ全員がギリギリのところで働いている。特に監督ともなれば、そのプレッシャーたるや想像を絶するものがあるのだろう。
燕雀(えんじゃく)いずくんぞ 鴻鵠(こうこく)の志を知らんや
(小さな人間に、大きな人間の志がわかるはずがない)
一番の新入りの自分だけが浮かれていたのかもしれない。
だが!
と、一平は思った。
(反省はする。でも役者にベストを尽くして欲しいオレの考えは間違ってはいない!)
一平は、そう考えて胸を張った。
毎日が勉強。まだ、この世界に入って1週間なのだ。
出来れば、映画の仕事をずっとやりたいと思い初めていた。村田の下でいい。ずっと映画の匂いをかぎながら生きていきたい。そう思うことで、新たな元気と勇気が湧いてきた。
(ヨシッ!明日も頑張るぞ!)
気持ちのいい秋の夜、一平は気合いを入れたが、その翌日、まさかあんな事態が起ころうとは…
(つづく)

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2011.10.02 Sun l 燃えろ一平!幻のデビュー編 l コメント (2) l top

コメント

なんやろ?
一体なにが起こるんやろ?


気になるわー。


明日が待たれへん。(^_^;)
2011.10.02 Sun l マリ. URL l 編集
マリさんへ^^
こんばんはマリさん^^
いつも読んで頂いてありがとう。
期待に少しでも応えられるよう、書き続けます!
2011.10.02 Sun l スマイルジャック. URL l 編集

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